ドイツ生活とメンタルヘルス 〜 心折れないために 〜
日本で育った私たちが、ドイツに暮らし始めると、たくさんの!や?に出会います。長年ドイツに住んでいらっしゃる方も、来独当時には新鮮な驚きや腑に落ちない事象をいろいろと経験されたのではないでしょうか。
海外で生活することがなければ、意識することすらないかもしれませんが、私たち日本人は「察する」ことを半ば当たり前とする文化の中に生きています。
「ありがとう」と言うより、「すみません」と口をついて出てくるのも、自分の気持ちはさておき、相手に手間をとらせてしまったかもしれないことに思いを馳せるからです。相手の気持ちを察して動くことを「思いやり」と呼ぶ私たちは、「察する」ことを美徳だと考えています。
一方、ドイツでは、自分から意思表示をすることがコミュニケーションの前提になります。まず、自分はどう考え、何を欲しているのか。これをきちんと言葉にしていくことを小さい時から求められます。発言しなければ、何も要求していないとみなされる反面、発信した言葉は尊重されるのです。相手と意見を交換しあうことをドイツ人は楽しんでいるようにも思えます。
日本とドイツ、どちらがいいか悪いかということではなくて、単に違う、ということですが、こうしたコミュニケーション・スタイルを含む文化の違いを知らないでいると、「なぜ、ドイツ人は見て見ぬふりをするのだろう」と苦々しく思ったり、「もしかして無視されているのかも」と被害的に解釈したりすることになりかねません。
普段「自明」と思っていること、いや意識すらしていないことにこそ、「腑に落ちないこと」への鍵が潜んでいる可能性があります。ドイツで現地の習慣や出会った人の態度にとまどった時、そこからちょっとだけ引いた目線で物事を眺めてみましょう。「なんだか今までとは違う状況の中にいる自分」を眺める自分、できたら「なるほど、そうきたか」と楽しんでしまう自分がいるとネガティブな感情に巻き込まれてしまわずに済みます。俯瞰的に物事を見てみると、自分が無意識に「こうあるべき」と思っていたことが、実はそうでないこともあるのだ、と気付くかもしれません。ただし、何でも受け入れなければいけないと言っている訳ではありません。これは違うな、ということがあってもいいと思います。いろいろな視点から考えることは、自分の経験値を高め、環境の変化にしなやかに対応できる力を育んでくれます。
これから来独する方には、ドイツ生活を綴った日本人のエッセイやブログで「予習」しておくこともお勧めします。異なる文化に感激したり、時には憤慨したり。ドイツ生活を仮想体験しておくことで、ドイツについてから、ああ、これかと思い当たることもあるでしょう。新生活にソフトランディングするのに役立つことと思います。
松永優子 先生(めじろそらクリニック院長、精神科専門医)
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